『施工BIMのインパクト大阪会場』セミナーレポート
施工BIMのインパクト -大阪会場-
2018年11月30日(金)株式会社日刊建設通信新聞社が主催するセミナー「施工BIMのインパクト」が、大阪の建設交流館グリーンホールで開催されました。
セミナー会場は200名近い参加者で活況を呈し、関西でのBIMへの関心の高まりが窺い知れました。
当日は、レブロユーザーである鹿島建設株式会社関西支店様による「BIMマネジメントによるワンストップ・ソリューション」と題した発表が行われました。同社が手掛ける「オービック御堂筋ビル」での取り組みを踏まえ、設備協力会社の三機工業様、新菱冷熱工業様との3社によるリレー形式の発表でした。
初めに、オービック御堂筋工事事務所所長である鹿島建設の北村浩一郎氏より、工事概要についての説明が行われました。本プロジェクトは、施主であるオービック様の創業50周年の記念事業であり、ホテル、オフィス、商業施設、ホールで構成。構造には、新世代制震ダンパーを採用し、災害時にも対応できるビルとして、コージェネレーション設備や地下オイルタンク、備蓄倉庫を備えているとのことです。
概要説明の後、本プロジェクトにおけるBIMマネージメントについての説明があり、従来型のバトンタッチ形式ではなく、関係者がその都度一堂に会して、常に同じデータを共有し、事前に問題点を解決して着工したそうです。施工段階からは、建物管理のグループ会社と合流し、維持管理に必要となるデータの作り込みも行っているとのことでした。本プロジェクトのスケジュールは、工事の入手から着工までわずか12ヵ月という短期間の中で、同時に解体工事を実施しながら、基本計画から評定取得まで、BIMを核として着工時不整合ゼロを目標に、組織的に取り組んだとのことでした。その中核がBIM戦略会議でした。
BIM戦略会議は、北村所長、加藤副所長を筆頭に、意匠・構造・設備・BIM推進の各設計担当者と現場BIM推進担当者の総勢15~16名で構成。鹿島建設グループ会社のほか、設備協力会社3社の協力を得て設計、施工のノウハウを作り込みに反映したそうです。作成したモデルは常に共有され、お互いの意思疎通を図ることに役立ったとのことでした。
北村所長に続いて、オービック御堂筋工事事務所副所長である鹿島建設の加藤誠氏による、実施設計における取り組みの説明が行われました。実施設計では、基本設計で検証したプランに対して、電気・衛生・空調の各工種のBIMモデルを作成し、事前調整を行い、問題点の抽出を行って、検討項目をピックアップ。検討項目は200項目を超える結果となり、それに反して実施設計期間は2ヶ月程度しかなかったため、各問題点に対して、「建築構造に変更要望が必要な項目」、「設備内のプラン変更など、総合調整で解決する項目」、「配管の干渉など、単純なおさまり検討で解決する項目」に分類し、重要度の高いものから、実施設計図へフィードバックしたとのことです。
一例として紹介されたのは、当初計画では廊下天井のおさまりが厳しく、隠蔽型エアコンが小梁と干渉しており、これが早い段階で問題として浮き彫りとなったため、総合調整を行い、小梁を取りやめる変更を行ったことです。BIMモデルの早期作成により、精度の高い実施設計が可能となったとのことでした。また、従来、施工図を作成する際に検討していたメンテナンススペースや将来の機器更新計画を実施設計段階で検討し、施工図ベースの実施モデルを作成したそうです。このほか、オフィスエリアの空調については、徹底的なモジュール化を検討。数パターンのダクト・配管レイアウトを検討し、数量拾い機能を用いた材料ボリュームの比較により、最も合理的なプランを選定し、実施設計図へ反映させ、そのプランのまま施工を行っているとのことでした。
続いて、従来着工後に作成されていた総合プロット図に関しても先行して検討を行い、着工までの期間で総合プロット図のBIMモデルを作成。各種設備機器、操作スイッチ等、すべてに属性情報を付加し、画面上で設備仕様の確認が可能となったそうです。この属性情報が、最終目的となるFM連携に活用されることを想定しているとのことでした。
今回の取り組みにおける課題として、CADオペレータの3次元対応能力の不足、BIMオペレータの不足を挙げられました。今後を見据えた社員、協力会社のオペレータ育成、増員が急務とし、プロジェクトの特性を見極め、BIM活用レベルを早期に方針決定し、効率的な作業を行うことが有効と述べられていました。設備協力会社のオペレータには、レブロ講習会を定期的に行い、課題に対処されたそうです。
施工における取り組みとしては、BIMデータの拡張利用として、安全教育用VRや「もの決め」の促進、周辺地域への情報発信としてのスマートフォンARアプリの利用、施工図チェック、ホロレンズを活用した施工アシストについてご紹介がされました。
加藤副所長に続いて、三機工業空調衛生技術1部技術1課主任の津野将太郎氏による、同社におけるBIMの拡張利用による工事進捗管理について、その取り組み内容の説明がありました。
まず、搬入時にフレキダクトの入ったコンテナを利用することで、現場での積み替えをなくして省力化。コンテナの中には、系統ごとにプレカットされたフレキダクトをパッケージングし、貼付されているQRコードをタブレットで読み込むことで、受入検査に利用しているそうです。受入確認後の吊り込み作業では、フレキダクトの接続にワンタッチ式を採用することで、施工時間の短縮、品質の均一化を図ったとのことでした。施工後の設置確認は、タブレット端末にて行い、タブレットから送信された進捗状況は、現場事務所のパソコン画面上で確認することができるそうです。
各種データの保管や、その出し入れはインターネットを利用。QRコードを利用した受入検査や、タブレットを使っての設置確認時に送信されたデータは、インターネットを介して記録されるそうです。受入確認や設置確認以外にも、フレキの設置位置をタブレット上の図面で確認することができるとのことです。
併せて、レブロのデータリンク機能や系統管理機能を利用することで、進捗状況を色分けして表示することができるとご紹介いただきました。
津野氏に続いて、新菱冷熱工業大阪支社技術三部技術一課主任の友田祐介氏による、同社のBIM拡張利用について、レーザー墨出しやPSユニット化、気流可視化について、説明がありました。
レーザー墨出しについては、作業者が持つプリズム棒の位置を感知し、タブレット上でインサートの位置に誘導してくれるものです。これにより、従来の墨出し作業に対して作業工数が減り、技術に特化した作業員でなくても、ほぼ同等な品質を確保することが可能となったそうです。
この技術を採用したことによる効果として、作図時間約3割の時間削減、施工スピード約2割の向上。施工ミスの削減の3つを挙げられていました。
PSユニット化については、BIMモデルによるバーチャルモックアップを作成。メンテナンス性や将来更新スペースの確認を行い、お客さまへのスムーズな合意形成が可能となったそうです。また、実際にモデルルームに設置するユニットを作成し、搬入据付の作業性検証も行ったとのことです。
気流解析については、早期に作成してきた建築設備統合のBIMデータを利用することで、短期間で解析につなげることが可能となり、解析結果をホロレンズに出力し、実際の吹き出し口からの気流情報を可視化し、お客さまへのデモによる承認や確認作業に有効性を確認したとのことでした。
FM連携については、再び加藤副所長が説明されました。
設計段階で構築した設計・施工BIMデータベースをもとに、建物管理で重要となる要素を抽出し、FM用BIMデータベースの作成を進めているそうです。
体制として、グループ会社の鹿島建物総合管理と協業し、WGを通して各種課題を検討しており、建物管理の見える化やQRコードとBIM属性情報の連携などの取り組みを進めているとのことでした。
FM連携のシステム概要としては、タブレット等の携帯端末経由で収集した情報をプラットフォームに集約し、BIMと連携して属性情報やビューアの利用を想定しているそうです。
今後の展望としては、ブレーカーやバルブなどの影響範囲の見える化、AR技術との連携による天井隠蔽部の見える化やマニュアルレス化、QRコードとBIM属性情報の連携によるメンテナンス履歴入力やデータ管理業務の更なる省力化を挙げられました。そして、IoT技術との連携により、各種設備の運転計測器類とBIM-FMシステムとの連携を図ることができ、機器の運転時間と故障率の関係などデータベースの作成が可能となるそうです。このビックデータを、企画・設計段階で、フィードバックすることで、一気通貫のワンパッケージサービスが確立できる可能性を秘めていると述べられ、動画でそのイメージをご紹介されて発表を終えました。
最後に北村所長から、受講者にメッセージが伝えられました。
受講者の一人として、印象に残ったその言葉でレポートを締めくくりたいと存じます。
これからの現場の生産性向上を考えたときに、BIMは決して外すことのできないツールになっております。ただし、それらを使うのは、我々すべて人であるということも言えます。我々建設の仕事の主人公はやはり人です。現場はその人、一人一人が役割を自覚し、その持ち場を、責任をもって丹念に全うすることで、大きなエネルギーとなり、ものづくりが完結していくと思っております。そしてエネルギーを更に飛躍させることのできるツールとなってこそが、BIMの魅力であり可能性であると思っております。